１０歳ほどの男の子と，近所に住む大学生が，なにやら話しをしていた。大学生は，フランス旅行に行ってきたばかりだそうで，どうやら旅行についての話しをしているようだ。
　大変な田舎で，外の地域の情報に疎い上に，海外に旅行に行ったなどという人はとても珍しかったので男の子は興味津々だ。
「ねぇ，『ふらんす』ってどんな所？」
男の子が尋ねる。
「フランスにはね，エッフェル塔や凱旋門があって，とてもたくさんの人が集まるんだよ。ファッションが生まれる地でもあるんだよ。」
大学生が答えた。
「エッフェ……」
「エッフェル塔。とても高いタワーなんだ。」
「じゃ，何とか門は？」
「凱旋門ね。大きな門で，とても有名だよ。写真とかでよく見るから，もしかしたら君も知っているかも知れないね。」
「ふうん。分かった。ありがとう」
　男の子は家に帰ったあと，兄に，大学生と話したことを喋った。
「大学生のお兄ちゃんが『ふらんす』に行ってきたんだって。」
「『ふらんす』って何？」
　どうやら兄も，フランスのことを良く知らなかったようである。
「高いタワーや大きな門があって，ファッションが生まれるとこらしいよ。」
「ほう。それなら行ってきたことがあるぞ。」
「本当？」
兄の意外な発言に，弟はかなり驚いた様子。
「本当さ。でも，近頃は東京のことを『ふらんす』って呼ぶのかい？」